奥会津三島町での日々

噛めば噛むほど美味しいスルメのような魅力を持つ奥会津三島町の暮らしや協力隊活動の様子を書いてゆきます。

移住者インタビューその16

田上 敏明さん(34歳)

埼玉県久喜市出身。2006年から写真撮影で会津地域へと通い始め、2013年頃からは三島町に足繁く通い、ちょうど令和の始まりとともに三島町へ移住。現在は会社勤めのかたわら、趣味の写真撮影や山歩きを満喫されています。

 

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三島町へ通うようになったいきさつ

 奥会津との出会いは、小学生の頃、列車の旅で只見線に乗車して訪れたのが初めてだったと記憶しています。その時のことはあまり覚えていないのですが、その後、夏の家族旅行で訪れた際には、夜の金山町でホタルの乱舞を見て感動したことが今でも心に残っています。久喜市では開発の影響によりホタルを見る機会がありませんでした。

 時を経て、2006年頃からいわゆる「撮り鉄」として、国鉄時代の車両を求めて会津地域へ通うようになりました。最初の頃は、年に一度のペースで紅葉の時期にSLなどのイベント列車を撮りに来ていました。

 そのうちに会津撮り鉄仲間ができ、只見線沿線に通う頻度が増え、2013年頃からは毎月第2、第4週の土日に観光協会からんころん内で営業される「みやした蕎麦と豆腐の会」のみなさんと出会い、当時売り出し始めたばかりの「アーチ三兄弟」が撮れるポイントを教えていただきました。また、その時に食べたそばがあまりに美味しく、そばの日の度にからんころんへ立ち寄るようになっていったので、地元の方とも顔なじみになり、いつしか写真撮影というよりは、地元の方々というか親戚に会いに行く感覚で通うようになっていきました。

 

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アーチ三兄弟(国道252号線、JR只見線、県道にかかる3つのアーチ橋)

 

 只見線は何といっても景色がよく、三島町だけでもよいポイントがたくさんあります。撮影の待ち時間などに周囲を見ながら、いい写真が撮れそうな場所の目星をつけ、あとで地形図を見て歩きやすそうなルートを探しながらポイントを開拓しています。そのため、道なき道を1時間以上藪漕ぎして不発に終わることもあれば、思った通りのポイントが見つかって大喜びすることもあり、さらに「今度はあっちへ行ってみよう」と次々と行きたい場所が見つかるので、撮影ポイントが増えすぎて回りきれないのが悩みの種です。ただ、車を停める場所がなかったり、道が整備されていないため、なかなか人に紹介できないのが現状です。今はきれいに整備されましたが、整備される以前から第一橋梁のポイントにも足繁く通っていました。

 

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三島町一番のビューポイント 第一只見川橋梁

  

 通い始めた頃は、只見線の列車を大きく入れて撮影していましたが、次第に「○○と只見線」といった感じで、列車を脇役にしてサイノカミ(無病息災、五穀豊穣を祈る小正月の伝統行事)や例大祭などの行事と列車を絡めたり、目を凝らして探さないと列車が見つからない様な写真ばかり撮るようになりました。

 

三島町へ移住した理由

 数年前からどこかに移住したいといった思いがあり、三島町の他にも移住先の候補は幾つかありました。ただ、自分は人見知りがあり、自分から人に話しかけるのが苦手な方なので、知らない土地で暮らすことには不安がありました。その点、三島町は通い続けただけあって地元の方々から話しかけてもらえる機会も増え、サイノカミなどの地元の行事に参加しても疎外感がなく、三島町へ移住する決心がつきました。

 会津の人の気風を表す言葉として「会津の三泣き」というものがありますが、自分にとっての一泣きはありませんでした。

*「会津の三泣き」とは

(一)初めて会津に来た人は、よそ者に対する会津人のとっつきにくさに泣き

(二)やがて会津での生活になれてくると、温かな心と人情に触れて泣き

(三)そして最後、会津を去るときには、離れがたくて三度目の涙を流す

 

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サイノカミと只見線

 

 移住してよかったこと

 移住前は写真撮影の都合で夜は季節を問わず車中泊、渋滞を避けるため深夜・早朝の時間帯に帰宅することが多かったので、その必要がなくなったのは何よりよかったことです。移住の意思を固めてから実行に移すまでの期間が短かったこともあり、転職先が決まるのは早かったですが、住居が決まるまでには色々なことがあったので、今は住宅問題も落ち着きホッとしているところです。移住したといっても、平日は町外に通勤しているため、町内の方と会うのは殆ど休日になるので、その点は移住前と大きく変わっていない感じがしています。

 移住したことによって、天気の状況次第で仕事前や帰宅前に写真を撮りに行ったり、休日も急に思い立って飯豊山など健脚向けの山に登ったりする機会が圧倒的に増えました。

 そのほかにも夏場にはアカショウビンキビタキオオルリといった野鳥の美しいさえずりを自宅からでも聴くことができて、天気のよい夜は満点の星空に天の川が肉眼でもわかるような環境での生活は、都会では体験できないとても贅沢なことだと思っています。

  また、「気になったことは自分の目で確かめたい」という思いがあり、地形図を見て気になっていた町内にある28箇所の三角点巡りを実行しました。(三角点とは三角測量の基準点で、地形図や国土地理院のホームページ「基準点成果等閲覧サービス」で確認することができ、閲覧サービスで確認できる28箇所を三角点巡りの対象としました。)基本的には自宅から歩いて回り、長いときは日の出前から日没過ぎまで30km以上歩くこともありました。三角点をすべて回るのにおよそ4ヶ月で200km近く歩きました。

 

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三角点

 

 歩くことによって車では行けない場所や見落としてしまうような発見も多々あり、楽しみが尽きません。観光資源としてよさそうな場所も幾つかありましたが、先ほどもお伝えした通り、整備されていない場所ばかりなのが勿体ないところです。

 以前の生活と比べ「近くにカメラ用品や登山用品などの大型専門店がない」、「夕方以降に外食できる場所が少ない」、「住民サービスなどで不便を感じる」ということはありますが、特に大きな問題でもないので、不便なことも含めて楽しく生活しています。

  気がかりなことといえば、冬の暮らしが心配です。昨シーズンは例年にない小雪で、本格的な雪の中での生活は経験できませんでした。通っている頃に大雪や背丈以上の雪壁に遭遇するようなこともありましたが、日常生活での雪となると勝手が違うので、雪に関する心配事が尽きません。逆に本格的な冬を乗り越えられたら長く住み続けられる自信に繋がるのではないかと思っています。近くに温泉もあるので、寒い日は特に助かっています。

 

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三坂山と博士山


 最後に只見線の車両が新しくなって、写真を撮る頻度が減った分、山歩きの機会が大幅に増えたこともあり、思ったより早く三角点巡りも終わってしまいましたが、町内で未踏の地域もまだまだ残っているので、今後も新たな発見を求めて町内様々な場所を歩き回ろうと思っています。もし長靴にリュック姿で歩きまわっている人を見かけたら、それはきっと自分だと思います。変わり者かもしれませんが怪しい者ではありませんので、どうか温かい目で見守ってやってください。

 

インタビューを終えて

 地元の方も移住者の方も、ここで暮らす方々は自分で楽しみを見つける技に長けていなと常日頃感じていますが、田上さんのお話は私が想像できる以上のことで、こんな楽しみ方もあるんだと新鮮な感動を覚えました。冒険の舞台というとアラスカや南極大陸などを思い浮かべますが、三角点巡りや藪漕ぎしながらのポイント開拓は、生活圏でも冒険できるという発想の転換につなががり、私の世界もふっと広がった気がします。そして、改めて三島町のポテンシャルの高さというか、懐の大きさを感じる時間でもありました。只見線から始まって、よりディープな世界へと進んでいく田上さんの冒険が、今度はどこへ向かうのか今後の展開が楽しみです。